日頃の備え

 地震はいつ起こるか分かりません。震災発生時に、移動や意思伝達にハンデのある障害者にとって、日頃の備えは「自分の命は自分で守る」と言う観点から、とても大切なことです。
 障害特性にも配慮をした、より具体的な方策を考える必要があります。

1 地震についての話し合い

(1) 震災発生時の具体的な避難方法、避難経路、連絡方法、役割分担などを家族や身近な介助者および職場の人と話し合って決めておきましょう。


(2) 地域での隣人や友人と日頃のつきあいを通して、救援ネットワークをつくっておくと、いざというときに安心です。

(3) 救援を必要とする次のような人は、区市町村における救援依頼の受付窓口を確かめて、意思表示をしておくとよいでしょう。
  • ひとりで避難が困難な人
  • 家族や介助者がいても避難が難しいと思われる人
  • ことばが不自由なため、助けを求めることができず孤立してしまう恐れがある人


(4) 治療を受けながら在宅生活を送っている人の場合には、かかりつけの病院へ避難することを考えている人も多いと思いますが、震災発生時には救急医療が優先され、避難先にはなりません。日頃からかかりつけ医と震災発生時の避難方法や救急対応などについて話し合いをしておきましょう。


(5) 外出先で地震があった場合を考え、家族と次のようなことを決めておきましょう。
 例えば、外出時に震災にあったら、まず最寄りの「避難所」に行く。次に、自分で連絡することが難しい人は防災手帳に記入してある居住地域の「避難所」へ安否確認の連絡をしてもらう。家族とは具体的な待ち合わせ場所をきちんと決めておく。
 季節や時間帯によっては、屋外での待ち合わせが困難な場合もあることを考え、できれば「避難所」内に分かりやすい場所を見つけておくとよいでしょう。
家族やかかりつけ医などと話し合って決めた内容を防災手帳に記入しておきましょう。



視覚障害のある人は?

 震災発生時には多くの被災者が「避難所」に集まることが予想されます。家族などとの待ち合わせ場所は分かりやすいように、例えば‘避難所の右側の門柱’や‘障害者エリアの中’と決めておきましょう。


聴覚障害のある人は?

大地震が起こったとき、どのようなことに困るでしょうか?

  • 地震の被害状況や避難場所についての情報がなかなか得られない。
  • 家具の下敷きになって身動きがとれないとき、発声が困難なため助けを呼べない。
  • 避難場所に着いても、放送が分からず、食事の配給などの援助がなかなか受けられない。
  • 離れた場所にいる家族などと連絡を取り合うのが難しい。
  • 周囲とのコミュニケーションがうまくとれず、孤立してしまう。
  • 自分から「聞こえない」ことの意思表示ができない。
などなど

それゆえ、次のようなことを心がけておきましょう。

  • 電話による連絡が困難な人の場合には、特にそれに代わる連絡方法を決めておきましょう。
  例えば、携帯情報端末(18頁「震災発生時に役立つ情報機器」参照)などを利用しましょう。
  • 震災発生時にテレビやラジオなどを通じて流される情報を伝えてもらえるつき合いを日頃からしておきましょう。
例)
  • 近所で火事が起きたとき、隣の人に教えてもらえるようにしておきましょう。
  • 停電があったとき、隣の人に復旧の見通しなどを教えてもらえるようにしておきましょう。
  • FAXを持っている人、FAXのあるお店を確認しておきましょう。
  • 近所の人との連絡方法として、書き消しが簡単な筆記用具を用意しておきましょう。



内部障害のある人は?

 内部障害者には、常時、生命維持のための医療的ケアが必要な人と、継続して医療、健康管理、介護などが必要な人がいます。震災によって治療が中断されることで生命を脅かされる状態にもなりかねません。いざというときに、速やかに医療機関が確保でき、必要な治療が受けられることで命を守れるように対策を立てておきましょう。

 家族はもちろんのこと、次のような「避難所」の環境について区市町村の防災担当者と話し合っておきましょう。

「避難所」は、安静・保温・清潔・換気などの生活環境が整っているか、医療的ケアの場所はあるか、プライバシーが守れるか、禁煙であるかなどを確かめましょう。整っていない場合は、整えてもらうように、防災担当者にお願いしておきましょう。

 薬剤や装具、特殊食品については、それぞれ、かかりつけ医・看護婦、訪問看護ステーションのスタッフ、薬局の薬剤師、装具・酸素など供給企業の担当者と次のようなことを具体的に話し合っておきましょう。また、緊急時の対応やかかりつけ医での治療ができない場合の他の医療機関への移送について、かかりつけ医や看護婦などと話し合っておきましょう。


心臓に障害のある人は?
  • ペースメーカー埋め込みをされている人は、異常が発生したときの対応、連絡方法などを、かかりつけ医や機器メーカーと相談しておきましょう。
  • お子さんの場合は、震災発生時はその場から動かないようにして、周囲の人の救助を待ち、家族に連絡してもらいましょう。近場の「避難所」か医療機関に移送介助をしてもらう、安否確認をしてもらうなどを、日頃から家族と話し合っておきましょう。

呼吸器・心臓に障害のある人は?
  • 在宅酸素療法をしている人は、病状によっては1〜2日間位酸素を利用しなくても心配のない人もいます。事前にかかりつけ医に酸素の必要度などを確認しておくと、あわてないですみます。
  • 人工呼吸器装着の人は、ライフラインや酸素吸入が中断された場合は、すぐに命に関わってきます。事前に救急対策を家族や関係者と具体的に話し合っておきましょう。
  • 酸素の「避難所」への供給について酸素供給企業の担当者と話し合っておきましょう。
  • 震災発生時の在宅酸素療法の健康保険適用については、平常時と同じように医師の診療を受けることが条件となっています(災害救助法適用地域では、災害基金の対応になります)。

腎臓に障害のある人は?
  • 透析中に地震が起こった場合の対応や避難方法などについて、かかりつけ医や看護婦等と具体的に話し合っておきましょう。
  • 透析が中断した場合を考え、透析患者カードの記入や他の医療機関への移送について確かめておきましょう。
  • 腹膜透析をしている人は、かかりつけ医や訪問看護婦などに震災発生時の救急対応について確かめ、家族にも分かるように、手順、方法などをメモしておきましょう。

膀胱・直腸に障害のある人は?
  • ストマを装着している人は、避難生活時のストマケア・洗腸や健康管理(特に排便コントロール)などについて、かかりつけ医や看護婦、専門看護婦(ET・WOCナース)などに手順や留意点などを確かめておきましょう。
  • 外出時は、ストマ用品を1〜2セット持っていましょう。

小腸機能障害者は?
  • 経管栄養(中心静脈栄養、その他経管栄養)をしている人は、震災発生時の救急対応について、かかりつけ医と話し合っておきましょう。かかりつけ医が対応できない場合、他の医療機関への移送についても確かめておきましょう。
  • 経管栄養の必要物品、操作の手順・方法などについて、家族や介護者にも分かるように、メモを作っておきましょう。
  • 薬局の薬剤師と輸液製剤の「避難所」への供給について話し合っておきましょう。
  • 輸液製剤、栄養パックは冷暗保存が必要です。「避難所」で冷暗保存ができるのか防災担当者に確かめておきましょう。冷暗保存が不可能な場合、次善の策を考えておきましょう。


健康管理への配慮(感染症や合併症を予防するために)

食事の管理
 震災発生時には、生活や行動が制限され、食欲が低下し、栄養不良状態になりやすいので栄養のバランスや摂取しやすい食事についても、医師や看護婦、栄養士などに相談しておくとよいでしょう。

・急性増悪の予防と対応
 震災発生時の衝撃や急な環境の変化による心身の疲労は、感染症を引き起こしたり、合併症を悪化させたりすることとなります。
 ふだんと違った次のような症状が出たときは、すぐ、かかりつけ医などに相談しましょう。
1.だるい、疲労感が強い、食欲がない、眠れない。2.尿量が減っている。むくみがある。3.動悸、息切れが強い。呼吸困難がある。4.脈が速い、乱れている。5.熱が出ている。6.痰が増えて、膿性になっている。7.冷汗、四肢冷感がある。8.あくびが多くでる。9.爪や唇が紫色になっている。など

・パニック(急に強い息切れや息苦しさが起こった)時の呼吸法
 日頃から呼吸法を身につけておいて、非常時でも落ち着いて対応ができるようにしておきましょう。
1. まず、楽な姿勢をとり、リラックスしましょう。

2. 鼻から、ゆっくり深く息を吸いましょう。
3. 口をすぼめて、ゆっくり息を吐き出しましょう。これを数回くりかえし、徐々に息を吐く時間を長くしましょう。
(頭の中で数を数えながら、1・2で吸って、3・4・5・6で吐く)
4. 楽になるまで、このような呼吸を続けましょう。
埃や煙などを防ぐために、タオルや布などで、口をおおうようにしましょう。
どうしても息が吐ききれず、息苦しさが強くなってしまうときは、家族や周囲の人に介助をしてもらいましょう。

・介助方法
1. 楽な姿勢で、口すぼめ呼吸からはじめ、腹式呼吸と口すぼめ呼吸を繰り返す。
2. 介助者は、肋骨の下の部分を手を広げておおうようにそえる。
3. 吐く息に合わせて、肋骨をしぼるように圧迫してあげる。
 以上のような呼吸法や介助方法を身につけるには練習が必要です。病院の医師や看護婦の指導や、地域の保健福祉事業の呼吸器教室などに参加して身につけておくとよいでしょう。



知的障害のある人の家族、援助者は?

  • ひとりで外出中に震災にあったとき、避難の際、家族や付き添い者と離ればなれになってしまった時の待ち合わせ場所(▲▲▲避難所)や対応方法を決めておきましょう。
例)
迎えにくるまで、その場所を離れないでじっとしている。
誘導してくれる人の指示に従い安全な場所に着いたら、家族に連絡をとってもらう。
  • 待ち合わせ場所が決まれば、何回か一緒に行って確認をし、避難経路図を書いておくとよいでしょう。
  • 困ったことがあれば、まわりの人に助けを求められるよう日頃から本人に意識づけておきましょう。



精神障害のある人は?

  • 自分の病気のことや服用薬の内容については、ふだんからかかりつけ医とよく相談しておきましょう。
  • 服用薬について、本人が直接医師に確かめにくい場合は、家族に頼むのも一つの方法です。家族と相談してみましょう。
  • 合併症があり、震災発生時には悪化する恐れのある人は、悪化時の対応についてもかかりつけ医と相談しておきましょう。
  • 心理的な不安が強くなったり病状が悪化し、「避難所」での生活が困難になることが予想される人は、あらかじめ専門の病院や医師に相談しておきましょう。